2006.06.01 執筆コラム 「…っぽい」方が、本物っぽい!?

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2006年6号掲載

『人は見た目が9割』(新潮新書)が売れている。もはや「ボロは着てても心は錦」では通用しないことを、誰もが自覚し、気にしている証拠である。しかも人が得る情報の約80%は視覚から入り、第一印象は3秒で決まる。有形無形の商品においても、パッと見のインパクトがいかに重要か、それは今さら言うまでもないだろう。

ところで、商品においては見た目やパッと見が単に「いい」だけでは十分とはいえない。スペックや機能だけでなく「物語価値」「情緒価値」が求められる市場においては、いかに「それらしさ」をプレゼンテーションできるか、が最大の価値を持つといってもいいだろう。

デパ地下における話題のお総菜も、「美味しそう」だけが価値ではない。魅力的な産地名や、素材名に反映されたこだわり、見た目の洗練さや素朴さをメニュー内容に合わせて自在にコントロールし、盛り付けに趣向を凝らす。それらが「美味しそう」から「絶対食べたい!」までの距離を繋ぐピースのひとつひとつになっていく。

ブームの焼酎や泡盛、あるいは黒酢などにも同様のことが言えるだろう。実際の製造の現場を確認するわけにはいかないからこそ、製造に関係するこだわりを商品名や容器でプレゼンし、さらに「いかにも」な飲み方を提案することによって、ユーザーの期待感、満足感を獲得している。

企業にも品格や品位、姿勢が求められてはいるが、だからといって「正直」であればいい、というものではない。お客さまにそれがきちんと伝わらなければ、「正直」も「真面目」も価値にはならないのだ。

通販市場で圧倒的な強さの「やずや」も、商品そのものだけでなく、正直さや真面目さを、いかにもそれらしくCMやDMで伝えているからこそ、機能価値と情緒価値が相互に支え合える状況を創り出したといえる。

本当に質のいいもの、機能性が高いものを提供している、真面目な企業は非常に多い。しかし、使ってみてわかる良さや食べてみてわかる良さだけでは十分ではない。いや、むしろマーケティング・コンサルティングの現場では「どうして、そんなにいいことを、もっとアピールしないのですか!?」と驚きの声をあげることが多い。「うちは絶対にウソをつかないのがポリシーなんですよ」という担当者の声を否定はしない。ウソをつく必要はまったくない。しかし、冒頭で記した通り、もはや売り手としての謙虚さは美徳ではない。本当のことなら、なおさら堂々とアピールしていくことも、ひとつの企業責任である。

正直さや真面目さすら、いまは図々しいほど表現していかなければ相手(お客さま)には届かない。しかも、情報が多過ぎる世の中ゆえに、「届くための仕立て方」が大変重要になってくる。シンプルで、かつ、わかりやすいこと。お客さまのイマジネーションを具体的に刺激していくためには「いかにも…っぽい」ことが、商品を取り巻く世界観をうまく伝えてくれる。そして、その世界観が「本物っぽさ」を「本物」として追体験することを促進する。

今後、注意したいのがLOHASの「…っぽさ」である。提供する商品によって、またどのような人に対して、どのようなLOHAS的価値を約束するのかによって、仕立て方はまったく異なってくる。昨今の雑誌のグラビアによく見受けられるシンプル&ナチュラルにしてしまうと、本物から乖離しかねないので注意が必要だ。その点からも日本における、日本人にとってのLOHASを、一度各社なりに描いていくことは有意義である。

本物は常に求められている。しかし、本物であることを、上手に堂々と自己表現しなければ、本物であることは伝わらない。「…っぽさ」を単なるギミックとは侮れない。