公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2007年1号掲載
好景気実感無き空前の贅沢消費が活発化したり、一方でスピリチュアルなものが話題になったり、とモノ消費とココロ消費が盛んだ。消費額に比例して満足感が得られれば良いのだが、その満足感もうたかたであることが多い。そのうえ、日々仕事や家事や子育てに追われつつ、充実感と焦燥感は紙一重。さらには、燃え尽きてしまったり、不完全燃焼だったりで、心が風邪を引いてしまう人も増加の一途だ。何よりも年間3万人を超す自ら命を絶つ人たちの数は、豊かで健全な社会のものとは言い難い。
豊かなのに息苦しかったり、時間があるのに気持ちに余裕がなかったり。その中で、これからもっと注目し、そしてもっとも充実させていくべき時間はONとOFFの中間領域や、誰のためでもない自分領域だろう。メンタル・ヘルスにも、また時間価値格差にも密接な関係がある領域である。
今年は、その領域の象徴を「王様時間・お姫様時間」と呼びたい。自分を王様やお姫様として、自分で大切にいたわってあげられる時間。一日にほんの5分でも10分でもいい。その場所がどこであろうと、家にも職場にも属さない自分のためだけの贅沢な時間。「third place」として地位を確立したスターバックスがその典型だが、何もカフェだけが「王様時間・お姫様時間」の場所ではない。いたわりスペースではあるが、わざわざ感の伴う岩盤浴、リフレクソロジーやスパである必要もない。もちろん、そうしたリラクゼーションのための場所に頻繁に行ける時間があればそれに越したことはないが、なかなか行けないからこそ、毎日の生活に「王様時間・お姫様時間」が必要なのだ。
それでは、どのような人たちに、どのような「王様時間・お姫様時間」を提供できるのだろうか。それには誰がどのような「いたわり」を必要にしているかをつぶさに観察していかなければならない。言うまでもないが、’40代会社員’や’30代子持ち主婦’等の単語で生活者を括っていては王様・お姫様の実態も気持ちも見えてこない。生活者の顔が見えなくて当たり前の調査をし、その結果に嘆くことには、もう終止符を打ちたい。一人ひとりの顔と行動をじっくり観察したうえで、本当に顔が見える次世代型フェイスシートを設計し、「王様時間・お姫様時間」創造のチャンスに気付き、形にしていくマーケティングが求められている。塾通いに追われる10歳の王様も、老々介護で疲れている68歳のお姫様も、その「時間」を自ら気付いてはいなくても切望している。
特に喫煙・飲酒に置き換わる「新しい何か」には、ビジネスチャンスの鉱脈がまだまだ眠っている。
とにかく、まずは何よりも自分自身に必要な「王様時間・お姫様時間」を毎日の生活の中に創っていくことからはじめたい。
あなたの「王様時間・お姫様時間」は、どこで何をしている時間ですか?