2007.09.01 執筆コラム 若手サラリーマンは経験プア予備軍

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2007年9号掲載

サラリーマンの実像に変化が見られる。今回は~34歳までの若手のサラリーマンはどう変わったか、を見てみたい。

1973年~1982年生まれの男性は866万人。未婚率は25~29歳71.4%、30~34歳47.1%[以上※1]。未婚率が激変する年代である。とはいえ、初婚年齢は周知の通り年々遅くなり、男性は29.8歳。「理想的な相手が見つかるまでは結婚しなくても構わない」と思う男性は1997年の50.1%をピークに減少を続け、2005年は約47%となっている。しかし、結婚に対して根強い憧れは依然としてあり、特に「子供や家族を持てる」ことを結婚の利点と考える男性は急激に増加している。家族に支えられてこその精神的安らぎの場が家庭である、といえる[※2]。

プライベートタイムでも「人との付き合い」を重視する傾向は強く、30代では「家族とのだんらん」、20代では「友人などとの交際」が自由時間の過ごし方としては際立っている[※3]。独身男性ではアクティブなアウトドア派以上に自宅での「映像・音楽鑑賞・テレビゲーム」「インターネット」にお金をかけて楽しんでいる人が多く[※4]、デートも「自分・相手の家」64.8%ともっとも多い[※5]。こうした傾向は前回の35歳以上の男性と対照的である。

では、そんな彼らのサラリーマンとしての現場はどのようなものであろうか。1994年以降、大卒者の入社3年以下の離職率が上昇傾向[※6]にあり、しばしば問題視されているが、転職環境の整備に伴い、この傾向はますます加速している。それを支えているのが、仕事をする上で「自分のやりたい仕事ができること」をもっとも重視している、というマインドである[※7]。企業側の中途採用者も50%近くが25~34歳[※8]となっており、2006年には25~34歳の転職者が110万人の過去最多に達している。就職氷河期経験者であることから、とりあえず入れる会社に入った後に本格的な就職活動をしている、ともいえる。

しかし、そうした転職が出世欲に結びつかない点がこの世代の特徴である。無理してまで出世したくない、のである[※9]。これはインタビューの現場でも頻出するキーワードである。昇進しないようにあえて仕事をセーブしている、と告白する人の方が多い。彼らの転職は、現状にそこそこ満足しているものの、「やりたい仕事」を求めてのものであり、その願望は揺るぎない。

そうした仕事を通じて得ている民間サラリーマンの平均年間給与は25~29歳343.7万円、30~34歳406.9万円[※10]。親同居が多い20代未婚会社員の自由になるお金の使い途では「貯蓄・投資」が「食費・飲み代」より多い[※11]。手堅さがうかがえる。

果たして「やりたい仕事」「自分らしさ」をどこまで本人が自覚しているか、という議論はさておき、背伸びをせずに手に入る快適さや自分にとっての居心地の良さを求める姿はオフタイム、オンタイムともに共通している。35歳以上が多少なりとも見栄を張り、他者に対してより良く見せたいという背伸びを積極的に楽しみながらしていた世代であるのに対し、34歳以下の世代では背伸びすることを「無理すること」ととらえ、身の丈をよしとしている。「身の丈消費」のような話は団塊ジュニア論では必ず出てくるが、消費に限らず、仕事や職場とプライベートにおける人間関係に対しても同じ傾向である。

背伸びをしないので足下しか見えず、将来設計も現実と未来の間が乖離している。日々貯蓄に勤しみながらも、将来の夢を語らせるといきなり定年後の夢物語(しかもメディアでお馴染みの陳腐化されたストーリー)になる傾向が強いなど、リアル・プランを語るには素材=経験値が少ないようだ。

経済的な豊かさを第一義のしあわせに置換しなくてもすむ70年代以降生まれの彼ら。自分にとっての穏やかな心地良さを追求するあまり、異質なものと巡り会うチャンスを逃しているとしたらもったいない。この世代にあっては多様な経験を消化できた者が、10年後20年後の「豊かな人」になるだろう。

※1 総務省「国勢調査」2005
※2 国立社会保障・人口問題研究所「第13回出生動向基本調査」2006
※3 内閣府「世論調査」2003
※4 電通TREND BOX 2004
※5 電通TREND BOX 2006
※6 文部科学省「平成18年度学校基本調査」2006
※7 Benesse教育研究開発センター「若者の仕事生活実態調査」2006
※8 リクルートワークス研究所「中途採用計画調査」2007
※9 GEコンシューマー・クレジット「出世願望に関するアンケート」2002
※10 総務省「平成17年家計調査年報」2005
※11 エフエム東京「若者ライフスタイル分析」2006-2007