公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2008年9号掲載
育児パパだけではない大きな潮流として生まれつつある「男の家庭進出」については、本誌6月号本欄においても一部紹介したが、今回はそのテーマに関わる弊社調査結果から実態部分に目を向けてみたい。
調査は本年6月下旬に全国25~44歳のパートナー・配偶者との同居男女10,309名(WEBリサーチ:マクロミル)を対象に行った。都市部と地方部との比較をはじめ、得られたデータから描くことのできるシーンは多様であるが、ここでは全体の傾向から特徴的な点を追っていく。
ありきたりではあるが、まずは家事実施状況から。「家事の主たる担い手」として男性が行っている家事トップ3は(ある意味予想通りであるが)、ゴミ出し(51.3%)、フロ掃除(36.0%)、食事の後片づけ(23.2%)。若干ではあるが若年層ほど実施率は高い。この数字だけ見るとなかなかの実施率とも言えるが、これはあくまでも本人の自己申告。週7日における各々の実施日数を見ると、もっとも日数が多いフロ掃除でさえ2.07日である。
内閣府のワークライフバランス(以下WLB)に関する調査同様、本調査でもWLBという言葉の認知ですら17.3%という彼らの多くは仕事中心の生活であるため、家庭で過ごす時間そのものがまだまだ十分ではない故の家事実態といえるだろう。
この程度(といっては失礼であるが)の家事実施状況ではあるが、自分たちが行っている家事内容について、さまざまな悩みを抱く人たちもいる。
「家事に対して特に悩みや不安はない(男性49.3%、女性22.2%)」であるものの、一方で「家事をやらないことでパートナーから愛想を尽かされないか不安である(男性14.6%、女性14.2%)」「がんばっているつもりなのに評価されない(男性10.8%、女性22.0%)」などと感じている。また、仕事に対する意識とWLB実践度の関係では「出世や成功したい」「仕事とは自己実現の場である」としている人ほど家事に対する不安や悩みを感じる傾向がある。ほどほど志向の人は仕事も家事もほどほどで満足、ということだ。
家での時間を示すイメージワードは「ゆったり」「まったり」「のびのび」あたりが主流となるが、パートナーとの関係性が今ひとつ思わしくないと思われる(俗な言葉を使うとラブラブ度が低い)男性にとっては、似て非なる「だらだら」「ごろごろ」が選ばれる傾向にある。
今回はごくごく一部の紹介にとどまっているが、男の家庭進出を支えるキーワードは世代、仕事観、妻とのラブ度の3つが非常に大きい要素であることは間違いがない。もちろん居住地や職業、年収等も影響しているが、俯瞰する際の基本的な軸は把握しておきたい。しかし、もうひとつ触媒的要素として「ほのぼの感」を加えたい。
最近のいわゆる育児パパ奨励本の中には「子育ては一大プロジェクトである」との主旨で、目的志向でチャート化したり、やるべきことをブレイクダウンしたりと仕事化の側面があるが、そうした攻め志向の人ほど不安が強いという点は、バリキャリ系のワーキングマザーにも共通しているのではないだろうか。この点は男性が女性化しているというよりも、女性の男性化によるものといえるだろう。いい悪いという視点では判断できないが、「仕事は生活の糧を得るためのものである(67.7%)」「仕事はできるだけ楽にすませたい(50.4%)」と考える人たちにとっては、少々荷が重い掛け声かもしれない。
なぜなら、こうした仕事観だけでなく、世代間比較をしても若年層ほど「ゆるい」「ほどほど」「そこそこ」といった傾向は強く、同時に家庭を中心とした生活満足度も高い(しかし、そこに強い自覚があるわけではない)。男女ともにキャリア志向のような勢いはないが、自然体で家庭を楽しみ、家族との時間を充実させている様子はここに紹介し切れていない多くの数字からも顕著である。
行政や企業がWLBを声高に訴え、また環境を整備していくことは受け皿という点では不可欠なことであるが、彼ら自身が「なんだか楽しそう、面白そう、幸せそう」と家庭に興味を持つことがなければ、まさに仏作って魂入れず、になってしまうだろう。こと家庭や育児に関しては不安訴求型ではなく、ほのぼの感染型こそが行動変化を起こしていく。
家庭進出している男性ほど「ほのぼの幸せ感」が強いぞ、という手応えが分析半ばではあるが、はっきりと表れていることで本稿を締めくくりたい。