2008.09.01 執筆コラム 海抜0メートルのセレブリティ・スペース jicoo

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2008年9号掲載

クルーザーでのパーティ…日本では馴染みのないイベントと思われているが、身近なところで手軽に楽しめることをご存知だろうか?東京湾・日の出桟橋から発着している「jicoo」。時間と空間を越える存在でありたいという思いが、その名に込められているそうだ。宇宙船のようにも、あるいは虫のようにも見える、滑らかな曲線からなる近未来的な船体デザインは、かの松本零士氏によると聞く。

日中は隅田川の定期便として運行しているため、乗船経験のある人や目にした人も多いことだろう。この定期便など、まず船のひとときだけで十分気持ち良い時間を味わえるが、さらに特別な時空間を五感全体で味わえるのが「jicoo」だ。限られた時間にだけ“出現する”というのも、特別感がさらに増すポイントだ。

ウェイティング・タイムから、見慣れた日の出桟橋のイメージを覆すスペースが心地よい。適度なこぢんまり感と、オシャレな異空間が私のお気に入りだ。ハリウッド・セレブや、ルイ・ヴィトンをはじめとする世界のトップブランドが、東京でのパーティ会場スペースとして選んだと聞く。「時空間を自由に操る」というコンセプトは徹頭徹尾貫かれていて、船体からスペース、サービス内容までも、ゲストのリクエスト次第で変幻自在に姿を変えるそうだ。ナイトタイムという、世界都市東京の格好の背景を味方につけ「jicoo」が魅せる色鮮やかな様子をカラーで紹介できないことが非常に残念だ。

夜景の煌めく時間帯、海抜0メートルから見る東京湾の風景は、Floating Barとして特別なサービスを約束する。選び抜かれたドリンク・オードブル、そしてジャズの音色に包まれた非日常空間。まさに忙しい日常から逃避行できる時空間としての価値がある。

もしも、あなたが「jicoo」へ足を運ばせる機会があったら、是非とも普段とは少しだけ違うオシャレして訪れて欲しい。趣向を凝らしたサービスを提供をする側に対する「パーソナル・マーケティング」という視点で見れば、それがどれだけの意味を持つかおわかり頂けることだろう。

蛇足ながら船ゆえに、エンジン音が気になる方もおられるかも知れない。しかし、だからこそ会話を楽しみたい方々は二人の距離を縮めるまたとないチャンスでもある。こんな空間を使いこなせてこそ、東京の粋な大人だ。また、知る人ぞ知るスペシャリティースペースであるため、ぶらりと行くように見せかけても、運行スケジュールの確認はキチンとしておきたい。いつ何時、世界のセレブがパーティの予約を入れてしまうかも知れないのだ。くれぐれも油断禁物である。