公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2009年1号掲載
大衆不在の現在におけるヒット商品誕生のメカニズムと人々における情報伝播の仕組みを、08年までの最新の具体例満載でわかりやすく説明しているのが本書である。一年半にわたる電通「新大衆プロジェクト」がベースになっているため、要所にデータもあり、単なる事象解説本で終わっていない。
タイトルだけ一見すると自分探し本のような印象を受けるが、正真正銘のマーケティング本である。自分探しの時代は終わり、自分に似た人探しの時代になった背景を解説し、それゆえに生まれた従来とは異なる現象のあれこれとそのメカニズムを紹介し、その未来形を語る…と本書は進んでいく。
本書のメインテーマは「自分に似た人探しをする人々」こそ、新たな大衆である「共振型消費者」=「鏡衆(きょうしゅう)」である、という点にある。それは世代や所得等々のさまざまな階層を越えたうねりであり、だからこそ大きなヒット(短期ブレイク型とじわじわ大ヒット型)をこの時代に生み出すことができるのだ、と書かれている。
「ヒット」と評される対象は、政治、スポーツ、農業、ボランティアなど、およそわたしたちが日頃見聞きするすべてのモノやコトが含まれる。即ち、それらすべてがマーケティングの対象であり、コントロール可能であることを教えてくれる。
また同時にそれは、意図を持つ側(つまりわたしたちマーケティング側)の意識と行動を変えることを求めてもいる。意図を持ってコントロールしようと思っても、鏡衆とそのメカニズムを理解せずに手を出すと大火傷をしますよ、ということだ。斜に構えず、素直に向かい合って読むことをお奨めしたい。
「いま」をふんだんに切り取った、手に取りやすく読みやすい新書である。が、事例が多岐にわたっていることと、著者の伝えたいことがあふれている(鏡衆誕生の心理的背景、文脈置換、鏡衆が日本を変えていく可能性など)ため、おそらくもっとじっくりと知りたい・読みたい、と思う人も多いのではないだろうか。本書で書かれたメカニズムから生まれる「これから」についても、今後さらに論を深めた展開をぜひ読んでみたい。