公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2009年2号掲載
「いいクルマが好きだ。男ですから」というコピーとともに昨年秋に華々しく登場したHONDA オデッセイ。94年の初代オデッセイのデビューから4代目にあたるモデルチェンジである。初代オデッセイもミニバンブームの先駆けとして大きなムーブメントを起こしたが、今回の4代目オデッセイもなかなか刺激的である。とはいえ、ここではクルマそのものの性能について語るわけではない。このクルマのメッセージから拡がる生活像、男性像について触れていきたい。
初代デビュー時の広告は映画「アダムス・ファミリー」の面々が乗り込み「7人乗り」「新しい家族のクルマ」をアピール。以来、オデッセイとはレジャー活動に活発な家族向けのクルマとしての印象が強かった。
が、4代目は「男」である。発売前のティザー広告で「いいクルマが好きだ。男ですから」とインパクトある文字で迫られた際は、気持ちのなかで後退りするほど「・・・・・・こう来たか」と感じたものである。極めて挑戦的であり挑発的。そして、姿を現したのはミラノの街角で官能的に艶めくボディのオデッセイと、黒いシャツが似合いすぎるジョージ・クルーニーである。こちらもコピーに負けず、あまりに濃い。
クルマが売れない、特に若い男性が買わない、といわれて久しく、かつ昨年秋からの金融不安もあり、かつてない逆風の中でひときわ異彩を放った4代目オデッセイ。他のミニバンが子どもたちとの時間を充実させた「パパ像」にフォーカスしているのに対して、こちらは、「ひとりのいい男」の余裕ある出で立ち。あるいはまた、他の高級SUVは、助手席で赤い薔薇が似合う美しい女性がお約束のように微笑んでいるという非現実的なシーンであるのに対して、4代目オデッセイはあくまでも「ひとりのいい男」の普通(風)の日常。
ファミリーカーの典型だと思っていたオデッセイが「いいクルマが好きだ。男ですから」と「男」の直球勝負である。あえて、今、男。心のなかで(女もいいクルマは好きなんだけど)とつぶやきながら、いったい、ここでの「男」は誰であるのか、想いを巡らせた。
たとえば。「男」であることに怯まず、照れず、むしろ強いプライドを持っている世代。孫がいてもおかしくない年頃。しかも、やんちゃな現役。本音としてはスポーツカータイプに乗りたい。しかし2シーターは実用的ではないと、妻の反対にあいやすい。しかも、妻も自分も休日は孫たちと一緒に出かけたい。やはり5~7人乗りで、それなりに荷物を載せられる方がありがたい。が、息子夫婦・娘夫婦のお財布事情を考えると、新しいクルマにはなかなか手が回らなそうだ。自分も使うし、お金は援助しよう。が、どうせ買うなら若い頃からのクルマへのこだわり心も満たしたい。クルマへの情熱は衰えていない。その辺の若い奴が乗っているミニバンにありがちな、色気のないクルマは乗りたくない。やはりクルマには色気が欲しい。クルマである以上は、走りにも妥協はしたくない。自分も、妻も、息子夫婦・娘夫婦も、そして孫も喜んでくれるクルマ…。
というわけで、使途としてはファミリーカーでありながら、存在としては色気ある男のクルマという二面性で、男としての現役マインドを持つ血気盛んな肉食系中高年男子のハートを掴んでいるのではないか。想像(妄想)が拡がる広告といいクルマは、やはり理屈なしに楽しい。