2009.04.01 執筆コラム 青山の新・ランドマーク<Ao>施設紹介

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2009年4号掲載

くさび形の先進的フォルム

青山通り沿いに3月26日にグランドオープンしたAo<アオ>。2004年まで高級スーパーマーケット・紀ノ国屋があった場所である。立て替えのために取り壊しが行われた後はさまざまな期間限定イベントが開催され、常にニュースの発信地としての顔をもっていたが、このたび再開発されお披露目された。

建設中から、その特異な姿は新宿のコクーンタワーと並んで注目を集めていた。コクーンタワーはその名の通り「繭」を模した曲線的な姿をしているが、こちらのAoは「くさび」のフォルムで、かつ全面ガラス貼りで直線的である。低層棟と高層棟の二棟からなるが、16階建ての高層棟は渋谷側の角が大きくそぎ落とされている。周囲に高層ビルがない立地の中で、上層部が下層部よりも大きく天に映えるそのデザインは、(おそらく好き嫌いがはっきり分かれるほどの)バランスの不思議なあやうさが強烈な個性となって新しい青山の顔を担っている。

空間デザインのメッセージ

遠目に見ても独創的な外観は目立つ存在であるが、外観だけでなく空間デザインの各面においても効率だけを重視している色気のないビルとは一線を画している。

青山通りに一区画相当ある贅沢な敷地間口を存分に活かしたファサード。内側の住宅街側にはステップガーデンを展開させることで境界を馴染ませている意図がうかがえる。これからの季節、木々の葉が茂ってくるとますます「いい顔」になっていくだろう。

また夜の外観を演出するライティングもAoの顔のひとつである。フルカラーLEDにより風や水、光などの自然を連想させるゆらめきを季節ごと・イベントごとに表現していく。先進性や洗練さを表現するだけではなく、ゆらぎの要素を取り入れている点は、銀座や六本木よりも肩の力が抜けている街・青山にふさわしく、それがAoなりの青山の解釈である。

「上質で美しい日常」の発信

非常に強い外観の個性ではあるが、約40のテナント群はもう少し穏やかで親しみやすい。コンセプトが「上質で美しい日常」であり、「上質を常質へ」と謳っているだけあり、日常の中にしっくりと居場所を得やすいブランドや品々が揃っている。

そういう意味ではまさに紀ノ国屋的なコンセプトである。アイテムそのものは日常そのもの。しかし産地やブランドはハレ感を味わえるだけのちょっとした非日常感(むろん、デイリー紀ノ国屋ユーザーの方々にとっては日常であるが)。

一点豪華主義ではなく、生活のそこかしこに息づく上質感に貢献するテナントが衣食住の各分野にわたって網羅されており、その多くが「他ではなかなか手に入らない」というスペシャル感を醸し出している。

グランドオープンより約一ヶ月遅れの4月24日、1階エントランス脇にオープンするのはシャネルであるが、こちらも6桁7桁のシャネルスーツやバッグを販売するのではなく、3000円台から手に入るフレグランスとコスメの専門店である。しかし、シャネルにとってフレグランス・コスメの専門店はここが世界初の路面店。限定アイテム(TOKYO HAPPENING)も登場する。

商業施設とは紛れもなく生き物である。これまでの「青山らしさ」をより際立たせるシンボルとなるのか、あるいはこれまでにない「新しい青山」を発信する存在となるのか、ここに訪れる人々とテナントがその答えを紡いでいくだろう。

Ao<アオ> 東京都港区北青山3-11-7