2009.11.01 執筆コラム 買わない世代の男子と女子の結婚

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2009年11号掲載

あっという間に世の中は婚活ブームである。晩婚化や少子化が問題になっている一方で(あるいは、だからこその結果として)、「いずれは結婚したい」という漠然とした将来のイメージではなく、自らの人生に組み込むべきイベントとして、その実現に向けて真剣に取り組む人たちが婚活という言葉によって表面化し、増加した。

他方、婚活と同様に、弁当男子、草食系男子、平成男子などの「男子」と、女子力、女子会など「女子」という単語も頻出している。オトコとオンナではない何かがこれらの単語には含まれているのを感じることだろう。男子も女子も、「モテ」に向けた必死感すら漂う諸活動を含みつつも、なぜかフェロモン臭が希薄でさわやかな印象を漂わせている。

ここでいうところの男子・女子とは現在の30代前半より若い世代である。93年には中学校で、94年には高校で家庭科の男女共修がスタートしており、ちょうど彼ら・彼女らから教育の現場は変化している。むろん、共修に唯一の原因を求めるものではない。

しかし、一生の価値観が形成される時期の教育や、長引く不況下における停滞した社会環境によって育まれた無意識の生活防衛意識による家庭観は、一過性のものではなく、一生を形成する強く大きな基礎トレンドとなる。

現に未婚男性が婚活後に描いている家庭のモデルは変容している。男性が期待する女性のライフコースにおいて、専業主婦を望む人の率が87年37.9%であったのに対し、05年では12.5%となっている。一方で女性に両立を望む人の率はこれまでの10%代推移から一気に28.2%と急増。女性においても両立(一生働き続ける)を望む人の率は30.3%と、初めて3割を越えた。いったん退職後、子育ての後に就業する再就職コースを望む人が男女ともに減少しているのは、現実の就業環境の厳しさを反映しているものだろう。いずれにしても、男女ともに、現実的にできるかどうかは別にして、結婚しても出産しても働き続けることを前提としている実態がうかがえる。(※1)

好況時にはボディコンシャスな服やロングヘアが流行る。強い男性が出現し、彼らに選ばれるためにアピールする女性が増えるからだ。ところが今や男性もスカートやレギンス(メギンス)を身に付けるし、お互いに服を貸し借りする男女もごく普通にいる。さらに、異性へのアピールより同性間での承認獲得にウエイトが置かれている。

弁当男子や洗濯王子に見られるように、家事シーンにも男性の姿はもはや違和感がない。相手の男性が「料理が上手だから」結婚を決める女性も増えている。

男子と女子の結婚は、まさに協働運営者として家庭を支え合うスタイルだ。所得での支え合い、家事負担での支え合い、子育てでの支え合い、そして一緒の楽しみ、安らぎを共有する。責任や権利を主張し合うのではなく、ごくごく自然にシェアしあう姿が浮かび上がる。弊社が行った結婚についてのデプスインタビューでも「男だから女だからとかではなく、彼女も働いているので、僕が家事をするのは当たり前。手伝う、っていうのは上から目線な感じがして、ちょっと違う。自分の役割としてやっているだけ」という発言が28歳の男性から発せられた。

結婚式や披露パーティ、新居選定はもちろんインテリア購入や家庭内雑貨選びに関する活動まで、いまや男性側もしっかりと希望を主張し、自ら動き、一緒に家庭を設えていく担い手として存在している(それをサポートする企業活動も、もちろん活発であるが)。おうち志向が強い彼らにとって、それらに関わることは当たり前のことである。

今後不況が緩んだとしても、既に形作られた男子女子の基本的な価値観は揺らがない。共働きが当たり前であり、男子も女子も所得を得ながら家庭を運営していく、という世帯が要件検討の前提となる。官民ともに前提条件の刷新を急ぎたい。

※1:国立社会保障・人口問題研究所調査