公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2010年3号掲載
商品開発の現場において、家事や育児についての普遍的な風景が刷新されつつある。正確に言うと先行していた現実の家事・育児シーンに企業が追いついてきた、と表現する方が適切だろう。夜に家事を行う、育児をする、を亜流ではなく本流として捉えることで、開発の視野が広がってきている。
音が静かだから夜でもご近所が気にならない、という洗濯機や掃除機、夜洗濯の後の室内干しを想定した洗剤・仕上げ剤など、以前から夜家事シーンを考慮した商品はあった。が、昨年辺りより登場している商品は「夜家事をしている人たち」に対して正面から取り組み、生活行動面だけでなく、夜家事意識にしっかりと応えている点が従来と異なる。
おうち時間の充実に妥協なし
開発事例のひとつはパナソニックの「夜の家事のパートナー」をコンセプトにした生活家電「NIGHT COLOR」シリーズ。若い共働き世帯だけでなく、around30向けのひとり暮らし(特に男子を強く意識している)を大きなターゲットとしている。
シリーズを構成している商品類はいずれも専業主婦ではない人たちの家事シーンを想定しているものだ。「ちょこっと家事」「週末まとめ家事」を支援しながら、本来の家事によって得られる「気持ち良さ」「自由時間」「健康」には妥協がない。従来型の掃除機や洗濯機だけでなく、手早くヘルシーなお料理を実現するスチームオーブンレンジや、少量でもおいしく炊ける炊飯器までをも同一シリーズにしているように、日中働いているからこそ、限られた家事時間だからこそ、おうち時間価値を高め快適に過ごしたい、という一見すると二律背反するかのようなニーズをしっかりと捉えている。
家事効率アップだけではない新しい価値
積水ハウスの「トモイエ」は、ずばり「共働きファミリーが暮らす家」がコンセプトであるが、単なる共働き世帯をターゲットとしているわけではない。その世帯セグメントはかなりシャープである。夫婦ともに「仕事も、家族も、自分自身も充実させたい」と考える家族のための住まいになっている。単に家事を楽に、効率的に行えるような物理的支援だけでなく、家庭内に際限なく続く「片付けなければ」「洗わなくては」という「~しなくては」の家事プレッシャーからの解放を意識して空間や機能を備えている点が新しい。
夜家事はもちろんのこと、24時間時計を根本から組み直すことでシーン開発に繋がっている。例えば、共働きゆえに「実は日中は誰もいない家」であることに注目し、留守の間は「家が働く」ことを実現したり、最初に帰宅する子どもの気持ちにも対応したりしている。
今後はパパもママも夜育児?
共働き世帯は、ほぼ平成四年以降、そうでない世帯を上回っている。意識面においても、景気や就業環境の影響はもちろんあるが、結婚後も仕事を続ける(続けたい・続けて欲しい)という意向は男女ともに主流となっている。リタイア層を除けば、もはや平日の昼間に家事を行うシーンは標準ではないのだ。家事シーンにおける新しい価値の具現化は、まだ始まったばかりである。
では、育児についてはどうだろうか。「パパ男子」や「イクメン」なる言葉も、男性向けの育児グッズも浸透中であるが、弊社の調査によると「話し相手」「遊び相手」「子どもと入浴」「しつけ」「寝かしつけ」といった項目において、都市部よりも地方部で参加頻度が高かった。「子どもの送迎」「身支度」などの朝や日中に行われるような項目は、エリア差がほとんど見られなかった。
これは地方部の方が都市部よりも帰宅時間が早い(=在宅時間が長い)という事情によるものと思われるが、長妻厚生労働大臣が率先して示したように、父親の育児参加や労働時間の見直しは抗えない流れとしてますます強くなっていく。夫婦ともに働きながら、かつ家庭力も問われる時代になる中で、限られた時間における子どもとの関わり方や、その関係のサポートの仕方など、父親に限らず母親にとっても今後一層の充実が望まれるシーンが夜育児だけでなく、今までの時間割に収まりきれない新しい育児時間があるに違いない。