2011.02.04 執筆コラム 「ときめき」フォンテーヌ

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2011年1号掲載

気持ちは若くても容姿は正直

「嫌消費」とさえ言われている若い世代がいる一方で、消費を愛してやまない世代がいる。バブル世代以上の女性を、昨年「シニアガールズ」と名付け私自身の思いも含めて、その衰えぬ消費欲や若いままの価値観を紹介したところ、多方面から大きな反響があった。彼女たちは戦後に生まれ育ち、右肩上がりの時代を生きてきた。新しいものにもフットワーク軽く飛びついていき、変化を好み、何より見た目も気持ちも、驚くほどの若さに満ち溢れた世代である。自分の内面は20代の頃のままなので、だからこそ容姿の衰えには誰よりも自分自身が納得できない、というのがシニアガールズたちの心境だ。

そして、モノが売れない時代と言われる中にあっても、健康と美容は不況知らずの分野である。それゆえ、アンチエイジングをうたった商品やサービスがシニアガールズを狙ってこれでもかとばかりに競い合う熱い状況はますます過熱、前倒しに低年齢化している。あえてエイジングサインに気付かせることによって、アンチエイジング期間を長くしているのが現代である。

「嫌消費」とさえ言われている若い世代がいる一方で、消費を愛してやまない世代がいる。バブル世代以上の女性を、昨年「シニアガールズ」と名付け私自身の思いも含めて、その衰えぬ消費欲や若いままの価値観を紹介したところ、多方面から大きな反響があった。彼女たちは戦後に生まれ育ち、右肩上がりの時代を生きてきた。新しいものにもフットワーク軽く飛びついていき、変化を好み、何より見た目も気持ちも、驚くほどの若さに満ち溢れた世代である。自分の内面は20代の頃のままなので、だからこそ容姿の衰えには誰よりも自分自身が納得できない、というのがシニアガールズたちの心境だ。

そして、モノが売れない時代と言われる中にあっても、健康と美容は不況知らずの分野である。それゆえ、アンチエイジングをうたった商品やサービスがシニアガールズを狙ってこれでもかとばかりに競い合う熱い状況はますます過熱、前倒しに低年齢化している。あえてエイジングサインに気付かせることによって、アンチエイジング期間を長くしているのが現代である。

老化や加齢に抗う、というニュアンスを感じさせるアンチエイジングは、強い継続努力を求めるものである。加齢は一秒たりとも止まることがないのだから、それに抵抗しようとすれば継続は当たり前の条件になる。しかし、それがもっとも困難なハードルだからこそ、挫折することも多く、次々と新顔の商品やサービスが登場する余地があるわけだ。

いくつになっても「髪は女の命」だから

男女ともに髪には年齢が現れやすいが、女性の頭髪の加齢現象、いわゆる薄毛に対しては従来非常に画一的なアプローチであった。いわゆる頭頂部分用のウィッグ(カツラ)で、地毛と馴染みが良く、付けていることがばれにくいことが売りになっていた。そして、そこに登場するのは多くの場合、いかにもおばさま然とした緩いパーマが施されたショートカットのモデルであった。

けれども今はどうだろう。まずは対象年齢が若年化している。実際のところ薄毛に悩む女性やケアを意識し始める女性は、出産や授乳によって頭髪の悩みが出始める30代から既に出現していることもあり、これまでのおばさま然とした世代よりも40歳前後までを対象とするようになった。

そうした世代の拡がりや意識の若年化を反映して、関連商品の広告宣伝に登場するモデルやヘアスタイルも様変わりした。

「レディースアートネーチャー」の松坂慶子は肩より長いふわっとしたスタイルだし、野際陽子もボリュームを強調したボブである。大人の髪のためのヘアケアシリーズ花王「Segreta」の真矢みきは胸元に届く艶やかな髪だ。そして、「フォンテーヌ」の萬田久子はかつてのワンレン・ボディコンの時代そのままのロングヘアである。豊かで艶やかな髪こそが女性の証であるかのようである。

その中で、特に大きくメッセージの方向性を変えたのが「フォンテーヌ」である。「フォンテーヌ」というブランド自身は従来からあるが、大きな転換の契機となったのは、2010年9月1日に株式会社アデランス、フォンテーヌ株式会社、株式会社アデランスホールディングスがひとつとなり、株式会社ユニヘアーとして新たなスタートを切ったことによる。この際に、従来のオーダーメイド型のウィッグである「レディスアデランス」と、レディメイド型の「フォンテーヌ」という2つのブランドが統合されて、新生「フォンテーヌ」として生まれ変わったのだ。

これまでも女性用カツラはしっかりと存在していたし、どの百貨店に行っても必ず女性用カツラ売り場はあった。しかし、それは決まって人通りの極めて少ないひっそりとした売り場であり、しかも静的な陳列と決まっており、そこで女性販売員がブラシで商品の手入れをしている、というのが何十年来の風景であった。フォンテーヌもそうして売られがちなブランドであった。

同じ女性用カツラでもギャルが好んでつけている、エクステンションを含むファッション・ウィッグとは正反対である。

問題解決の先にある楽しみや喜びを伝える

ファッション・ウィッグは「シーンに合わせたオシャレを楽しもう」「シーンによっていろんな自分を演出しよう」というメッセージを強く打ち出すものだ。

一方、かつての女性用カツラは、対象としている年齢層が50代以上であるとはいえ、「気になる薄毛や地肌が隠せる」「付けていることを誰にも気付かれない」ということを伝えるのに必死であった。だからこそ売り場も「隠れて」「気付かれない」場所にあったわけである。対象年齢や目的そのものがファッション・ウィッグとは異なっていたので、商品や売り場の風景から受けるメッセージも異なって当たり前、とこれまでだったら言えるだろう。

しかし、薄毛を気にする年齢の女性、シニアガールズたちの意識や生活は既に大きく変わっている。冒頭に記したように加齢に対しても積極的、かつ合理的に取り組んでいる世代である。

また、専業主婦として生活してきた人の方が多い世代であるが、子育ても一段落し、自分たちの親も元気に活動している。彼女たちは自分のためにだけ使える時間を手にしているのだ。大人の女子会ともいえるちょっと贅沢なランチや、ちょっとした飲み会などのオシャレをしたいハレの場は増える一方という状況なのだ。フォンテーヌのCMの中に「さあ、ときめきを探しに行きましょ!」と萬田久子が呼びかけるものがあったが、従来型の「これで気後れせずに外出も楽しめます」という奥ゆかしいメッセージとは方向性がまるで逆である。

加齢の証を誰にも気付かれないように隠すためのツール、という位置付けから、人生を積極的に、そして華やかに楽しむためのツールとしてその存在を180度変えたことで、従来の部分用カツラがファッション・ウィッグになったのだ。

年齢を重ねていくことに抗う修行のよう継続の辛さを伴うアンチエイジングよりも、かぶるだけ、付けるだけ、という瞬間的な変身で、年齢や我慢から自由になって、新しい楽しみへの扉を開いたことから学ぶ点は多い。そして、外見をパッと変えることで、ワクワクした気分を味わえるという快楽的な“ときめき”はバブル世代のシニアガールにダイレクトに響く要素であり、ここに彼女たちを消費欲をさらに刺激する今年のヒントがあるように思っている。