2012.02.10 執筆コラム とじると、ひらく。

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2012年1号掲載

とじると、ひらく。この言葉から 何を連想するだろうか。

情報をインプットすることにばかり気をとられていると、情報の海に溺れてアウトプットすべきことを見失いがちになるから、一度思い切ってインプットの弁を閉じてみよう、とか。グローバル化とは外に合わせていくことではなく、自国の文化や実績に対する深い理解と誇りを持って発信していくことによって、初めて相互交流の場へ繋がる扉が開く、とか。震災によって自粛ムードに覆われていた消費が、足下の生活の見詰め直しを経て新たな形で活性化してきた、とか。今どきの若者は内向きだ、元気がない、損ばかりしている、かわいそうだ、と傍観者的上から目線で語られている一方で、従来からの連続性を持たない形で新しい仕事や活動が生まれてきた、とか。

どれもが「とじると、ひらく」ことであるに違いないし、わかったつもりで片付けてはもったいないことではあるが、ここで記すことは他にある。

とじると、ひらく。

閉経による女の子パワー(≠女子力)の開花。そして、それによるこれからの社会への影響力。 漢字で記すと妙に辛気くさく、かつ、可愛げがなくなってしまうのだが、この傾向はますます顕著になってきている。ますます、というのは、閉経後の女性パワーは今に始まったことではなく、おそらく昭和の時代からあったに違いない。しかし、弊社が彼女たちを対象に調査をし、その傾向に気付いたのが2004 年。以来、年齢的にはシニアに向かっていながらマインドと生活の端々には女の子要素があふれている、という意味で「シニアガールズ」として追いかけてきた。彼女たちをお客さんとする場合は、必ず女の子扱い(間違っても女こども扱い、ではない)すべし、というものである。

あまり年齢にこだわる必要はないが閉経の平均年齢はおよそ50歳前後(早い人は30代)。ライフステージも多様化しているので一概には言えないが、子育てもひと息つき始める頃だ。「美魔女」な方々の中にも、とじそう、とじたかも、とじた、といろいろな段階が混在している(医学的には一年間完全に「ない」状態にならないと閉経とは言わないらしい)。

とじたことによる体調の変化なのか、あるいは単に年齢やライフステージの変化なのか、いずれにしても、彼女たちが市場にとっても社会にとっても非常に頼もしい存在であることは今後いっそう多岐にわたって証明されていくだろう。

それは単に消費が活発なお客様、という意味にとどまらない。確かにヘルス&ビューティの分野では今後も最有力ターゲットであり続けるし、旅行やエンターテインメント分野においても、また5年前に不発に終わったシニアマーケティングの数々のリベンジにおいてもシニアガールズたちから学ぶべき点は多い。

しかし、一番は「おしゃべりが好き、初対面でもすぐにあれこれお話しできる、楽しいことが好き、キレイやカワイイが好き、おいしいものが好き、じっとしていられない、興味があれば地球上のどこへでも…」という女子中高生に匹敵する女の子パワーがこれからの時代の共通様式としてかなりフィットする点だ。これらに長年の生活スキルがもれなく付いてくるのだから、最強である。

これからわたしたちは震災後の時代を生きていく。絆などといちいち声高に訴えなくても、その重要性もそのメインテナンスも自然体で染み込んでいる彼女たちは、力強く逞しく、さっさと生活を整えていく。キレイやカワイイやときめきが持つ力を本能的に知っているから、生活にちょっとした潤いをもたらすこともできる。しかも彼女たちの理屈を超えた感性や感覚は、権力や建前を重視しない若年層とも繋がりやすい。

こうした力をいかに活かしていけるか。その感性こそが次代に求められるものではないだろうか。とじかけている日本をひらいてくれる、そのヒントの一端は彼女たちにある。彼女たちのポテンシャルや、そこから得られる多くの変換可能なヒントは「美魔女」分野だけでなく、社会全体に活かしていけることに多くの企業が気付くことで、市場をひらいていくだろう。