公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2013年5号掲載
本号のトップインタビューでも語られていた「デザイン」。あちこちで比較されているように日本企業が弱い分野であるとされているデザインは、色やカタチといった主にアートの分野における狭義のデザインではなく、人々の行動を変え、行動の意味や価値をも変える力を持つ広義のデザインを示すが、これを「体験」として紐解いているのが本書である。
そして、人々がその「体験」にどれだけ魅力を感じるか――自分も体験したい、みんなと一緒に体験したい、体験を伝えたい、もう一度体験したい、自分仕様に体験したい――、その広がりや成長の可能性こそが企業や商品、サービスの強さになる、と位置付けている。
つまり、ブランドの魅力や強さを左右する「体験」と、それを共有・育成する場や機会をより強く意識していかないと今後のブランド戦略は意味をなさず、早晩立ちゆかなくなると警鐘を鳴らしているのだが、そのためのブランド戦略がタイトルにもなっている「プラットフォームブランディング」である。ブランドに関わる体験の「場や機会=プラットフォーム」についての指南書だ。
従来の強いブランドが人々を惹き付ける圧倒的な存在感(ブランドが主語の自分語り)がブランドの知覚価値であったのに対し、メディアの民主化によりブランドが進化する(変化ではなく拡張を伴う進化である)と「生活者が主語となる協調的支援」がブランドの知覚価値になるとしている。スペックやシンボルで表現されていた価値に加え、「〜ができる」「〜をしてくれる」という価値が新たに強みとして必要になるのだ。
双方向の協調関係が育まれることに重きを置くので手間も時間もかかる。そして、そこでは人々を巻き込めるだけのデザイン力が問われてくる。しかし、不安になる必要はない。本書は、読み進めていくうちに従来のブランド戦略をわかりやすく上書きしてくれる構成となっている。ブランドを進化させるために、生活者とともに育てていくために、まずは考え方そのものを進化させていこう。