2023.01.06 メディア掲載 公益社団法人 日本マーケティング協会発行『MARKETING HORIZON』2023年1号の特集「新春提言」を担当

公益社団法人日本マーケティング協会発行の機関月刊誌『MARKETING HORIZON』2023年1号の特集「新春提言「虫」との共生―その囁きがインサイト」を担当いたしました。

新春提言
「虫」との共生
  ―その囁きがインサイト

異常気象はその異常さにますます磨きがかかり、タートルネック(着る人の体型を思い切り選ぶ残酷なアイテム)でエネルギー節約などと、首が痒くなりそうな施策まで飛び出す中で迎える2023年。ここはひとつ弊社ウエーブプラネットもその社名に恥じないよう、環境問題を真剣に考えた取り組みを打ち出そうと閃いたことのひとつが「『虫』との共生」。……ではありません。そもそも小手先の環境問題施策には否定的な立場です。バッジやアイコンだけのSDGs仕草に対する思いと同様、やるなら本気でやれ、と常日頃感じている立場。しかし、「『虫』との共生」は本気です。

ただし、ここで言う「虫」とは草木に生息する昆虫ではなく、わたしたち一人ひとりの中に潜んでいる虫。「虫の知らせ」や「虫がいい」という時の「虫」、です。

会話をしなくても伝わってしまう感情。いくら必死に隠しても滲み出てしまう人柄。笑顔の裏側にうっすらと潜む哀しさ。ひと言も交わすことなく、そこにいるだけで包まれるような心地良さ。そこにいなくても感じることのできる優しさ、などなど。

日々の生活は自分のことなのに自分では説明できないことだらけです。買うつもりはなかったのに。つい食べてしまった。自分とは異なる存在によってコントロールできなったり、後付けで自分を正当化してしたりしてしまうとき。自覚無きところの仕業に「虫」が登場するわけです。

全部、虫のせい

実在する誰かのせいにするよりよっぽど精神衛生上も良いと思いますが、この「虫」、よくよく考えると不思議な存在です。自分の内なる存在であっても自分ではない。自分の表情・感情・思考等に大きな影響を与えつつも、制御が難しい。よく言われている潜在意識化のいったい「虫」とは何なのか。人の意識の9割とも99%ともいわれている潜在意識とも少々違うような印象がある一方、潜在意識のまさにその真ん中に鎮座しているのが「虫」であるような気もしたり。

実は、かように「虫」に思いを馳せるに至った出来事があります。オフィスでの子育て中の女性との会話でした。「忙しい日が続くと子どもの調子がちょっと変わるんですよね、落ち着きがなくなるような気がして。イライラが伝播しちゃうのかな」「親の疲れやストレスって隠しているつもりでもバレるよね」「その逆に子どもが『大丈夫、なんでもない』って言っても何かあるときはやっぱり伝わるしね」「お互いの中にいる虫同士で喋っているんじゃない?」というような短い話でした。が、以来ずっと頭の中にそのイメージが残っているのです。お互いの中にいる、ちっちゃな虫同士がお喋りをしているという絵本の挿絵のようなかわいいビジュアル・イメージが。

思えば「虫」を用いた慣用句自体もたくさんあります。先述の他に、虫が好かない/虫の居所が悪い/腹の虫が収まらない/かんしゃく虫/虫の息/一寸の虫にも五分の魂/鳥の目、虫の目/弱虫/虫唾(虫酸)が走る……。気になって仕方がないので調べてみますと、なんと中国三大宗教のひとつ、道教(日本に取り入れられたのは6~7世紀)の時代に遡る由来がありました。人の体内で害悪を働くとされる三匹の虫、三尸(さんし)。上尸は脳に、中尸はおなかに、そして下尸は腰から下にそれぞれ陣取っており、60日に一度の庚申の夜になると体から抜け出し、その人の悪行や罪悪を天帝(イメージは閻魔さま)にチクる(意訳)というお役目を持っているとのこと。しかも、そのビジュアルが……調べなければ良かったと思うレベルです(迷惑と存じますがシェアします)。

しかし、とりあえず三匹の「虫」が中国四千年の歴史の中でも生き続けていたとなれば、これはやはり無視できない存在です。いえ、駄洒落ではありません。

購買行動は合理的でないとか、潜在ニーズがどうとか、インサイトこそ要とか、その時々で表現は変われど、マーケティングには顧客心理の理解に関する歴史があります。しかし三尸で腑に落ちました。三匹の「虫」の仕業だったのです。人には人の三匹の「虫」(餌は乳酸菌でしょうか)。その「虫」こそが意志決定の場面で大活躍しているのだ。そんなふうに感じます。この数年よく見聞きする「自分のご機嫌は自分でとる」というのも、実は「自分の虫のご機嫌は自分でとる」ということなのです。

虫の存在を前提として虫たちと向き合う。それにより生活者の意識外の行動が理解しやすくなります。なにしろやつらには天帝への密告義務が60日に一度、つまり年に5、6回もあるのです。日々虎視眈々と密告するに値するネタを仕掛けてはそそのかし(つまり欲を喚起し)、主を動かさなければならないのです。主たる当事者には自覚もなければ、まさか虫たちの企みとは思いもしないでしょう。第三者かつマーケティングに携わるわたしたちこそが「虫語」を理解し、その企みを読み解いていく必要があるのです。

三匹の虫のプロファイリング

インサイトはよくわからない、インサイトって要するになんなのか、としばしば尋ねられます。虫です。三匹の虫の囁きや企みです。より理解しようとすれば、三匹の虫をたとえば「理性と感性の虫(上尸)」「身体の虫(中尸)」「本能の虫(下尸)」のように役割を分けて「上尸にとっての心地良さとは?」「中尸にとっての一番のご馳走は?」「下尸がメタバースでときめくときは?」などと考えていくと、今までとは何やら違う視座からの気付きや閃きが生まれませんか?

その際、くれぐれも虫たちの主に惑わされないことです。目に見えることに引き摺られては虫との対話はできません。手始めに、まずは自らの三匹の虫に話しかけてみませんか。虫たちとの対話スキルはインサイト界隈で活かせます。しかも、AI比でアドバンテージを取れる可能性もまだまだ高いのではないでしょうか。わたしの2023年は、そのスキルに磨きをかけていきます。いずれどなたかと三匹の虫談義ができると嬉しいです。

ツノダ フミコ (つのだ ふみこ)

株式会社ウエーブプラネット 代表
社会の兆しと生活者調査から世の中と生活者のインサイトを導き出し、暮らしを再定義するコンセプトを開発。多数の生活者研究プロジェクトから得た視点と常識を疑う姿勢を活かし、その企業・商品・サービスの強みと魅力を引き出し、磨き、長く愛されるコンセプトや企業理念を描く。これまでの実績に基づくインサイトの導き出し方やコンセプトを組み立てる文章術などの研修、地方議員経験を活かした議員支援マーケティングも展開。

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