公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2021年9号掲載
あたながもしも企業経営者や役員、または管理職や人事担当者、そして企業経営に内外から何らか関わる立場にいるのであれば、この一冊を読まない理由は一つもない。これからの時代に優秀な人材を採用し、社員のロイヤリティを高めながらも生産性を上げ、同時に社員満足度も上げていくための施策がこの一冊には詰まっている。しかも、いずれも有無を言わせないデータと共に。反論の余地はない。
本書を読んでも尚、男性社員の育休取得に消極的な方々がいるとしたら、それは次代に向けて衰退していく企業であることを公言しているに等しい。恥をかく前に速やかに現場から退場されてはいかがだろうか。そう進言したくなるほど、本書では男性の育休取得率の上昇と企業活動の向上は相関があり、また、心理的安全性にも大きくプラスの影響を与えていることが示されている。
男性の育休取得は今や経営戦略課題であり、断じて福利厚生案件ではないことが示されている。
一時期、厚労省が中心となったイクメン・プロジェクトにて男性の育児参加が促された。しかし約10年かけても男性の育休取得率は2%から7%に伸びたのみ。その「失敗」経験がこの著者たちを法律による男性の育休取得義務化に突き動かした一因にもなっている。データも豊富だが、まるで「プロジェクトX」を観ているかの如くの熱さも行間に満ちている。
女性の問題として矮小化されがちな「出産・子育て」の問題を社会の問題として捉え、出産以前の交際や結婚についても言及している。社会保障制度や企業の就業規則が整備された昭和の頃から、社会環境も人々の価値観も大きく変化したことはマーケティングに携わっている読者の方々には釈迦に説法だろう。しかし、特に決定権がある世代の人たちのマインドはそれらの変化に追いつき、真に理解しているだろうか。
企業規模によらず、また時の上長によらず、人としての当たり前の暮らしを実現できる社会へ向けて、本書では丁寧に誤解を紐解き、課題と背景を示し、社会と企業への提言を示している。本号の特集と共に、生活者研究の立場からも必読の一冊である。