公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2019年1号掲載
マーケティングという単語で括られる仕事が年々増えている。これには二つの側面があり、ひとつはマーケティングっぽく見せた方が求人活動でウケがいいという下心から。もうひとつは主にデジタル関連業務拡大の影響で、実際にマーケティング領域の仕事が増 大しているから。いずれにしてもマーケティングの仕事は増え、それに関わる人も増え、その動きも活発になっている。そうしたマーケティングの仕事に現在就いている人、これから関わりたいと思っている人すべてにとって必読の書がこちらである。
事業会社、支援会社それぞれにおけるマーケターの仕事を、各々の立場から見える景色がどう違うのかを説きつつ、読み手のキャリアと特性に応じた向き不向きを、非常に具体的かつわかりやすく、かつ容赦なく開示している。
本書の想定中心読者であるアラサーの人たちにとってはリアルな指南書であるが、それなりに経験を積んだ人たちにとってもさまざまな登場人物に「これ、あの人のことだ」とその姿を思い浮かべながら読む楽しさがある。つまり、それほどまでに業務内容や働き方、将来展望に関する記述が詳しく現実的なのだ。
さらに、特筆すべきは著者の山口氏の目線と姿勢の温かさである。先に「容赦なく」と書いたが、業界関係者や身内が隠しておきたくなるような事柄も細部にわたり詳らかに著しているが、その筆致は決して偉そうでなく、意地悪でもない。上から目線で語られている箇所が一行もない。だからつい信用したくなる。学習塾に例えると「親身の指導」という、あれです。受験業界を熟知したうえで、その生徒に相応しい作戦を立て、合格まで時に厳しく時にやさしく伴走してくれる先生のような存在。しかし単なる熱血ではなく、当然商売ゆえに常に冷静に俯瞰した戦略を立てながら指導に当たる幹部教師タイプ。喩えが長くなったが、要するに極めて冷静かつ良心的にマーケティング界隈の歩き方を教えてくれる。望む仕事と働き方と報酬とのバランスを鑑みながら、数年後をどう考え、そのために今何をすべきかを説いてくれる。
もっと早く読みたかったとの声も多い、未読のアラサー諸氏にとっては課題図書だ。