2018.03.26 執筆コラム 『仕事と家庭は両立できない?』 「女性が輝く社会」のウソとホント(アン=マリー・スローター 著、篠田 真貴子 解説・監修・その他、 関 美和 翻訳、NTT出版)

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2018年3号掲載

既に地殻変動を起こしている「働き方・働く意義」における本質を見つめるための1冊である。タイトルからワークライフ・バランスの本と思うかもしれないが、「働く母親」を切り口にしているものの、本書が説いている内容は女性の働き方の問題に限らず、社会構造、男女の働き方、そして生きる姿勢そのものにまで及ぶ。

筆者はヒラリー・クリントン国務長官時代に国務省で政策企画の史上初の女性本部長を務めた、バリキャリの典型のような二児の母。しかし輝かしいキャリアとともに、身が引き裂かれ心がボロボロになるような子どもや家庭との葛藤もそこにはあった。そのような自身の経験から、いかに現代社会が「働く人」と「ケアする人」を分断することで成り立ってきた社会であるか、いかにこれまでの就業常識がもはやむちゃくちゃな矛盾だらけであるか、その問いを突きつける。

本書は「働きながら子どもを育てること・家庭を回すこと」を取り巻く数々の「ウソ」を暴きながら、子どもを育てながら働く親たち(男性も含む)の数多の「もやもや」に立ち向かっている。紹介される事例はアメリカのキャリア層のものであるが、「はじめに」で描かれている著者自身の過去をはじめ、全編通じて目頭を熱くして共感する人も多いだろう。

全3章から成るが、「Part1決まり文句を超えて」では、いかに「女性神話」「男性神話」「働き方」といった思い込みにがんじがらめになっているか、そして実はそれが冷静に考えればどれほど馬鹿馬鹿しいことであるかを暴いていく。「Part2色眼鏡を捨てる」では、多くの女性がいだきがちな“良き母・良き妻・そして輝く女性になるために、もっと頑張らなくちゃ”という健気な努力に対して、「まずは、自分に対するばかげた期待を捨てよう」と一喝している。そして、仕事と家庭は両立(バランスを取ること)させるものではない、落としどころ(フィットさせる)を探ることだ、と説く。これは昨今増えつつある家事育児の関与度が高い男性についても同様だろう。「Part3平等への道」では、ひとりの努力ではどうにもならなくても、手を携えることで生まれるムーブメントにより社会も職場も変えていけると鼓舞する。まさに真の「働き方改革」を見る思いだ。 これからは誰もが働き(稼ぎ)、家庭を回していく当事者になる。断言しよう。「仕事と家庭」の問題を女性だけの問題だと思っている企業に未来はない。