2017.05.23 執筆コラム 家庭内年中行事にみる、しあわせな人vs.不満だらけの人

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2017年5号掲載

もはやジャパニーズ・ミラクルと言ってもいいほどの様相を呈しているのが、目まぐるしい季節イベントに完璧に対応している小売店の店頭だ。特にコンビニにおでんが出始める頃から何やら不穏な動きが出始め、レジ前に十五夜のお団子がさりげなく置かれ、それが秋のお彼岸に向けたおはぎになり、それと同時に店頭はハロウィンの黒とオレンジで染め上げられる。このあたりから年末ムードも熱さを帯びていき、ついついTrick or treat.に便乗してお菓子を食べたり(便乗しなくても食べているが)、インテリア用の小さなカボチャを飾ったりしているうちに10月31日を迎え、テレビでハロウィンパレードを高みの見物で眺めながら「DJポリスもお気の毒」と思いつつ眠りに就いた翌日、街は既にクリスマスのイルミネーションに彩られている。さらに、そのイルミネーションも12月26日の朝には何事もなかったかのように厳粛な空気を放つ門松に取って代わり、風の香りまで変わったかのような佇まいを見せている。おせちを味わい、七草粥でカラダを休め、恵方巻きを頬張り、贅沢ショコラティエの作品を味わっているうちに、春のお彼岸のぼた餅が並ぶ。

なんだか季節イベントがベルトコンベアで目の前に次々運ばれ、欲してもいないのに半ば義務的に「そういうものだから」と手を伸ばしているようで、ひとつひとつの行事・イベントの有り難みや待ち遠しく思う気持ちが著しく低下しているのは、気のせいだろうか。いずれにせよ、ここ数年、そうした季節イベントには少々食傷気味でもあるのだが(個人の感想です)、果たして子育て世代の実態はどのようなものだろうか。

ここに都市部(首都圏、京阪神)在住の25-44歳の既婚男女における家庭内季節行事実施率についての調査結果がある。2008年と2016年を比較したものだが、スマホ前・スマホ後とも言える比較となる。

減少している家庭内行事

調査対象イベント42項目(2008年は41項目)のうち、19の行事の家庭内実施率が1割以上減少している。また、2008年には実施率5割以上のイベントが13あったが、2016年には9つに減っている。街の中を眺めている限りでは、むしろ季節イベントは加熱する一方のような気もするが、都市部在住25-44歳の既婚男女においては減少傾向にある(図表1)。

もう少し属性別に見てみよう。

世帯年収による相関は意外にも弱く、年収が上昇するほどイベント実施率も上がるとの仮説は成立しない。わずかに相関が見られるのは「おとそを飲む/七草がゆを食べる/しめ飾りを飾る」というもので、そもそも実施率が低い行事における差である。ちなみに年収が上がるほど実施率が減るという逆相関は唯一「雛菓子を食べる」というものであった。

次に、女性の年齢に注目すると、年齢と共に実施率が上昇するものは10項目。いずれも日本の暦の趣が感じられる行事が並ぶ。年齢が上であるほど実施率が上がるとはいえ、あくまでもアラフォーの女性であり高齢者ではない。にもかかわらず、こうした古典的な和行事に15歳の年齢差が表れることは興味深い(図表2)。これらは子どもの年齢にも関係する。

季節イベントは小学生の時がピーク

子どもがいる人の方が行事実施率は高いのだが、子どもがいない人の方がやや実施率が高い行事が2つある。ホワイトデー(同居の子あり41.3/子なし45.4)と土用の丑の日に鰻を食べる(22.5/24.3)、というものだ。また、子どもの年齢別に、乳幼児/小学生/中高生で比較すると、小学生の子どもがいる人の実施率がもっとも高い(19イベント)。中高生になると反抗期や部活、また母親の再就業等で家族単位での行事実施が減るであろうことは想像に難くない。家庭内で季節イベントが盛んなのは子どもが小学生の時がピークであると言える。ちなみに、小学生と乳幼児それぞれの世帯でその差が大きい上位5項目を比較すると図表3のようになる。ここでもなぜか和の色濃い内容である。

専業主婦以上に行事熱心な人たち

では、女性の就業形態別に見るとどのような差が浮かび上がるだろうか。

就業時間が長いほど実施率が下がるのではないか、との仮説を持っていたが、妻をフルタイム/週4日以上のパート・アルバイト/週3日以下のパート・アルバイト/専業主婦の4カテゴリーに分け、各世帯で比較すると、もっとも家庭内行事実施率が高いのは妻が「週4日以上のパート・アルバイト」の世帯であった。しかも、その差がより大きいのは妻がフルタイムの世帯であった。就業日数では大きな違いがないはずの両世帯間で、実はもっとも実施率の差が大きいのだ。しかも、その差が大きい上位10イベントを眺めると半数がギフト系のイベントであることに気付く。週4日以上をパート・アルバイトで働きながらも、彼女たちは家族に対する気配りやイベント準備を怠らない人たちなのだ。週の就業日数では大差ないフルタイム就業の妻の世帯との差は、物理的な時間の使い方によるものなのか、あるいは“脳内円グラフ”の構成比に大きな違いによるものなのか。今後の課題としていきたい(図表4)。

夫婦仲の良し悪しが透けて見える

ところで、一般的に(つまり、ステレオタイプで描くと)家庭内季節イベントが行われている家庭は、なんとなく幸せそうなイメージがある。ていねいな暮らしの風景であったり、暮らしを楽しんでいる様子であったりするのだが、ここでは家庭生活満足度の高低によるイベント実施率の違いを見てみたい(図表5)。

家庭生活満足度を0点~10点で表し、8-10点を家庭生活満足度の高位層、0-2点を低位層、3-7点を中位層として比較した。結果、低位層の方が実施率の高いイベントはひとつもなく、見事なほどに満足度と実施率には相関が見られた。相関であって因果ではないので、イベントを実施しているから満足度が高いのか、家庭生活に満足しているがゆえにイベントを実施しているのかは定かではないが、家庭に満足していない人ほど実施している家庭内行事は少ない。高位層と低位層の差が大きい上位10イベントを見ると、ここでもギフト系のイベントが多いこと、しかももっとも差が大きいイベント上位2位が「父の日」「母の日」「クリスマスケーキを食べる」であることを考えると、その家庭における夫婦の関係性、そしてそこにいる子どもの存在から連想される風景や空気感など、夫婦や親子の関係性が季節の行事一つひとつに反映されていることに、「たかが、年中行事」ではすますことのできないインサイトの存在がうかがえる。

ところで今年の春先は今までになくカラフルなイースターの装飾で店頭が賑やかに彩られていた。卵(イースターエッグ)やそれを模したチョコレート等のお菓子など、思わず買いたくなるような「かわいい」が目白押しであったが、果たしてイベント力としてはどの程度まで伸びるだろうか。食の要素が強いイベントは強いが、ギフト大義がいまひとつ弱いため伝播力では期待できない。「お返し」がもれなく付いてくるギフト色の強いイベントは、それだけで二倍の力があるのだが。

家庭内の年中行事、季節イベントは今後も増えていく(増やされていく)に違いないが、慌ただしく季節イベントに追い立てられるように義務で追随しても楽しくはない。「喜ばせたい誰か」「一緒に楽しむ誰か」がいること、季節イベントを家庭で楽しめるだけの時間のゆとり、経済的なゆとり、そして気持ちのゆとりがあること。家庭内の行事実施率は、そうした暮らしの在りようを物語っている。