公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2003年6号掲載
グループインタビューが増えている。と実感している方々も多いのではないだろうか。この1,2年の都内インタビュールームの予約状況が特にそれを物語っている。
WEB上で大量の定性情報の収集が容易になっても、また、さまざまな技術がオンラインのグループインタビューを可能にしてもなお(いや、だからこそ)、フェイス・トゥ・フェイスのリサーチに対する企業の期待は高まっているようだ。
確かにグループインタビューやデプスインタビューならではの価値は非常に有益である。言葉だけでなく表情や間といった生きた反応をリアルタイムで、かつ、目の前で得ることができることは他で得難い魅力である。それが最大の価値ですらある。故に、会場へ足を運ばずに発言録と結果報告書だけを求める企業は、こうしたインタビュー調査にお金を投じる必要はない、と言えるだろう。
関係者一同がその場を共有し、終了直後にミーティングを持ち、そこでのディスカッションで課題の検証や今後の方向性を見出さなければ意味がない。報告書はいわばおまけみたいなものでも本来は構わないのだ。
これまで多くのグループインタビューの場に立ち会って、そのスピード感と緊張感の有無がその後の商品や企業の勢いに関係していると痛感している。グループインタビュー受注側の立場で言えば、緊張感を与えてくれるクライアント企業ほど注文も多い代わりにわたしたちが学ぶ点はもちろんのこと、対象者から得られる情報も価値が高い、と実感している。
極論すれば、グループインタビューはその「場」が価値であり、勝負なのである。相応の準備と集中力がストレートに情報の質を左右する。それらを実現するために熟考を要するフェーズが、切り離して考えることのできない「調査目的」と「調査設計」である。
その「知りたいこと」は本当に「グループインタビューで得るべきこと」なのか、という確認を常に意識していかないと目的と手段の逆転が生じやすい。
仮説やコンセプトの検証という目的がグループインタビューには多いが、「見える形」になっていないコンセプトの評価と、その評価の判断は非常に難しい。肝心な「仮説」や「コンセプト」の完成度(ロジックの後ろ支え)が低いと対象者のせっかくの反応を検証として活かすことができない。仮説やコンセプトのふりをした「思い付き」の混在によるミス・リードを避けるためにも、まずはより簡便な方法である程度は精査しておくべきだろう。
検証すべき素材についてロジカルな確認をしないままに、単なるアンケート的なインタビューフロー、即ち、安易な一問一答形式のグループインタビューを実施する価値はどんなに探しても見当たらない。
クライアント企業に対して調査目的を達成するための手段を設計していくことは受注側の義務であると同時にプロとしてのプライドでもあるはずなのだ。何かしらの質問を投げかければ、何かしら答えるのが謝礼をもらう人間の心理であろう。質問する項目を考えるよりも、検証に値する要素を結果として炙り出すための手法や問いかけの組み立てこそがインタビューフローの存在価値である。
本音を引き出す技術は必要であるが、そもそも本音を持たない人や対象者という役割と同化している人から本音を引き出すことは、表層的な質問だけでは困難である。ファクツを丁寧に聞き出して、それらの裏側にある価値観を炙り出していく仕掛けを、属性や商品特性に合わせて複数用意することが必要である。
ところで、ここまで「グループインタビュー」と記してきたが、本音を言えばグループインタビューは「フォーカス・グループインタビュー」でなければ開催意義が無いと思っている。フォーカスすることを意識していけば自ずと稚拙な問題の数々は解消されるはずだ。インタビューはもっとロジカルに、科学的に展開できる可能性を秘めている。「とりあえずグループインタビューで反応を見よう」程度の意図では「とりあえず」にふさわしいレベルの情報しか得られず、モニタマニアの小遣い稼ぎに利用されるだけである。
グループインタビューは関係者一同が集中してこそ成り立ち、本来疲れるものである。発注側も受注側も覚悟が必要だ。だからこそ発注側の熱意には本当に毎回頭が下がる。「場」を共有する関係者のその熱意が、受注側の発奮を促し、クライアントの期待以上の情報を引き出してやろうと燃えさせる燃料であることの価値を、今一度大切に見つめ直したい。