公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2003年10号掲載
女性誌ではお馴染みの「オーラ(aura)」という単語。その人を包み込む、あるいはその人自身が放っているかのような独特な雰囲気のことを指す。この「オーラ的なるもの」が気になって仕方がない。
最近実施したインタビュー調査でのこと。購買行動と食生活をトレースしたが、巷間言われているように、もはやデモグラフィックな属性による差異に注目すべきものは少なく、さらに言えば年収や趣味、価値観などとの相関も予想範囲内のものだった。その一方で、共通の行動を支える軸としてもっとも強く感じられたものがある。対象者から受ける「幸せオーラ」なるものだ。「幸せオーラ」というと、うさん臭いだろうか。「幸福感」と言えばイメージしやすいかもしれない。
数十人の老若男女から得られた情報を串刺ししたときに、「幸せオーラ」を発していた人たちにのみ見られた生活習慣。それははじめの4~5人への調査が終わった段階ではバックルームにおける「雑談的仮説」に過ぎなかった。しかし、調査が進むにつれて、それは共通の確信となり、これからの生活像を描いていく際のキーとなった。
さて9月。表参道に日本上陸1号店がオープンした「AVEDA」。植物由来の自然派化粧品ブランドの直営店だ。マドンナをはじめとする世界中のセレブ御用達という点や「protect the planet」という視点での徹底したミッションの表現も大きな魅力となっている。
オープニングパーティーでは、グリーンのサングラスと、ブラジルナッツノキのビーズと麻紐で作られた簡素なブレスレットが配られ、セレモニーの小道具としてスピリチュアルでぬくもりのある演出に一役買った。自然 素材がもつ生命力や有機組織網に注目しているAVEDAならではの使命、コンセプトを見事に再現し、出席者への理解と共感を促した。
そうしたAVEDAのスキンケアライン「トルマリン チャージ シリーズ」のパンフレットにトルマリンのエネルギーから生まれたオーラの写真が載っている。オーラの写真採用の効果にはやや疑問を感じるが、価値訴求にオーラをもってくるあたりに、このブランドの未来への自信を感じた。
美容クリニックの医師にヒアリングした際にも、はっとしたことがあった。現在、美容クリニックの分野は「プチ整形」という言葉に代表される、メスを使用しない施術人気やアンチ・エイジングの潮流に支えられ、非常に活気がある。しかし、その医師いわく「病気の治療とは違い、いくら施術できれいになっても、その人の生活のなかに笑顔が増えなければ施術も意味がありません。笑顔ほど美しい表情はないでしょう?」。きっぱりとした態度で語られたその瞬間、またひとつ「幸せオーラ」的なものに触れた気がした。
いずれの場面でも「幸せオーラ」的なものを無視できなかった。それは力強く、温かい。安定感があり、安心感が得られる。「癒し」と言うより、明るさと楽しさがあり、何よりそれが常態である。そして活きのよさがあり、陳腐化しない。
スローライフやクオリティ・オブ・ライフなどの名を借りて語られるマーケティングのなかでわたしたちが提供する商品やサービスが「幸せオーラ」を発しているかどうか、今一度考えていきたい。「幸せオーラ」は差別化要素としてはもちろんのこと、それ以上に非常に本質的な「当たり前」を、当たり前のこととしてきちんと伝えられているかどうか、ということでもある。
なにがしかの対価を払う人の笑顔までのプロセスを、わたしたちはどれだけ多く、具体的に描けるのか。そして、それをどれだけそのとおりに実現できるのか。「幸せオーラ」という視点、なかなか侮れない存在である。