公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2004年2号掲載
少子化・高齢化や価値観の多様化が背景となり、従来の「家族」や「標準世帯」の概念やその姿は、今、大きく変わりつつある。改めて記すまでもなく、人口そのものは2006年の1億2,693万人をピークに緩やかに減少していき、2020年には65歳以上が28.7%に達すると予測されている。一方で、世帯数は増加を続け、2010年には単独世帯が30.3%と最も多い家族累計となる。
こうしたデータ以外にも、晩婚化の加速状況、パラサイト・シングルの増加、いわゆる入籍はしていないが事実上夫婦として生活している「事実婚」の増加や、一説には4組に1組という「できちゃった結婚」、かたや子どもを望みながらもなかなか叶わず不妊治療を受けている患者数は7万7,000人を越えている事実。 また、夫がサラリーマン世帯においては専業主婦の減少が続き、妻も正社員である共働きは微減、パート・アルバイトが伸びているという傾向もある。DINKSという単語が華やかさを感じさせていた時代とは明らかに異なる家族・世帯の変化がそこにある。構造そのものの変化以上に、そうした変化から漂ってくる香りのようなものに未来を描くヒントが隠されている気がしてならない。
43秒に1組が婚姻し、110秒に1組が離婚する。事実婚の浸透、夫婦別姓問題、夫と同じお墓に入りたくないと感じている妻の増加や、結婚すること≠嫁になること、と考える女性の増加…。それぞれ微妙な関係を持ちながらも異なる次元で語られている。
わたくしたちマーケティングに関わるものには、そうした生活者に対する調査票項目(フェイス項目)の根本的な見直しと、新しい軸の策定を求められているのではないか。それらをいち早く策定しなければ、次の生活像を見誤るからである。
一般的なマクロな傾向ならば、上記に上げたような「国勢調査」や「人口動態統計」、国立社会保障・人口問題研究所等のデータで良い。しかし、わたしたちが日頃行っている個々の調査で知りたいのは戸籍上の未・既婚なのではなく、誰と一緒に、どんな暮らしをしているか、であるはずだ。世帯収入の額だけでなく、その構成比も押さえたい。妻の方が労働時間も収入も夫より上回っていても、やはり「有職主婦」にカテゴライズされてしまうのか。「専業主夫」という言葉は少しずつ目にする機会が増えているが、「有職主夫」はほとんど見たことがない。
単独世帯を除き、世帯主は男性(夫)であり、世帯の主たる収入は夫によるもの、それらを当然とする刷り込みも見直していい時期だろう。
平成10年以来3万人を越えている自殺者のうち中高年男性が非常に多いのは周知の事実であるが、これも上記刷り込みが「大黒柱神話=自分が家族全員を養っていくべき存在であるという思い込み」となって、自ら必要以上の重責を感じてしまっているのでは、と切なさすら感じてしまう。今の住宅に大黒柱は存在しない。2×4やパネル住宅である。「家」を支える力はみな各々が等しく、それぞれの場所でそれぞれの役割を担っているはずであるし、また担えるはずである。女性のライフスタイル変化に比して、男性自らのモードチェンジが行われていないが故のひずみが、時として取り返しが付かない悲劇になっている可能性もあるのではないか。
高齢化という括りの中では2010年には単身世帯や高齢二人世帯が20.2%となると予測されているが、現実的にはより多様な世帯が増えていくであろう。ひとり暮らしの長所を活かしつつも、不安や寂しさを解消しあえる共有の仕組みを持つ、新しい価値観に基づく長屋的集合住宅も増えるだろう。意地でも夫より1日でも長生きしてみせる、と内心固く決意を抱いている多くの妻たちにとって、そうした住宅は現在の丸の内や六本木ヒルズでのランチに代わるものとして受け入れられるかもしれない。
生活者に接する多くの企業は、自らも含む生活者に対し「より良い生活」を何かしらのカタチで提供しているはずである。生活者との接点の向こう側の胎動をいち早く感じ取り、これまでの「家族像、世帯像、主婦像…」を一度きれいに捨て去るくらいの気概とこだわりでフェイスシートを一新すべきだろう。