公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2004年7号掲載
年間行事、と聞いてあなたは何を真っ先に思い描くだろうか。株式会社ウエーブプラネットでは一昨年前よりWEBアンケートを通じて、幅広い年代層に対して生活の側面を読み取るための情報を収集している。その中で、今年は「年間行事の実施率(42項目の年間行事から実施しているものを複数回答で選択)」という調査項目を設けた。今回はそのダイジェスト報告として、年間行事の実施状況からの考察を述べよう。(調査概要:04年1~3月にかけてソフトバンクパブリッシングAQUTNETにて10代以下~70代以上男女を対象に実施。有効回答者数5,919人。)
全体でもっとも実施率が高かったのは「年賀状を書く」で、実施率は80.8%。以下、全体での実施率50%を越えたものは、「年越しそばを食べる(75.7%)」、「おせち料理を食べる(72.1%)」、「お年玉をあげる(もらう)(65.4%)」、「バレンタインデーにチョコレートを贈る(もらう)(60.3%)」「初詣に出かける(56.1%)」「母の日に贈り物をする(51.0%)」と続く。
半数以上の人が実施している「母の日」であるが、一方の「父の日に贈り物をする(39.9%)」は、残念ながら「土用の丑の日に鰻を食べる(40.9%)」「鏡餅を供える(40.7%)」を下回っている。
また、いわゆる伝統的な風習や行事ともいえる「書き初め」「七草粥」「鏡開き」「立春に鰯の頭に柊を刺して飾る」などは全体での実施率は低いものの、10代以下と70代以上での実施率が20~60代での実施率よりも高い、というU字カーブが見られた。
世帯年収別の傾向を見ると、42項目中30項目において「世帯年収が高いほど、実施率も高い」という相関関係が見られた。
男女別で大きな違い(10ポイント以上の差)が見られた行事は、「バレンタインデーにチョコレートを贈る(もらう)」「雛菓子を食べる」「柏餅・ちまきを食べる」「母の日に贈り物をする」「父の日に贈り物をする」「クリスマスの飾り付けをする」「クリスマスプレゼントを贈る」「年賀メールを出す」というものだった。ちなみに42項目中36項目で女性の実施率の方が高く、実施率50%を越えたものは男性6項目、女性10項目だった。
鰻に負けてしまった「父の日」はやや哀愁を漂わせているが、その他の結果を分析してみると総じて納得できるものが多い。
年末年始の伝統的行事を除いて女性の実施率が高いものは、バレンタインデーや母の日など、「年末年始もの」よりは比較的新しい行事といえる。男女別で見た通りではあるが、女性は「贈り物」と「食べ物」には柔軟に対応する傾向が見られた。特に贈り物に関しては、自らがもらう立場ではなくとも、「贈る」という行為を通じてのコミュニケーション、または大義名分のあるお買い物(しかも選ぶ楽しさ=プロセスの価値がある)、という点があるゆえに積極的に関われるのだろう。また、女性既婚者においては舅・姑との関係の潤滑剤としても機能しているといえよう。
世代別では、10代以下では学校単位での実施が色濃く影響しているために、個人や世帯での実施意向とは異なるバイアスがかかっている点は考慮したい。が、それにより継承されていく年間行事の存在(「書き初め」や「鰯の頭に柊」など)も、今後はますます貴重なものになっていくだろう。
20代・30代では単身世帯も含まれるため、行事実施率の落ち込みは否めない。逆に20代・30代が他世代より高い実施率を示しているのは、「バレンタインデー」「母の日」「父の日」「クリスマス・カードを書く」である。これら行事は未既婚や同居家族の内容に関係なく、自分も相手もそれぞれ楽しめて、なおかつ”歳をとる”誕生日とは異なり、相手との関係性確認ができる嬉しい行事、という共通点がある。
ちなみに、今後実施率が伸びそうなものとしては「節分にその年の恵方に向かって太巻きを丸かぶりする」というもの。関西では昔からお馴染みの風習であるが、近年は全国的に小売店が力を入れている。そのうえ、食べものが関係しているうえに、30~50代で実施率が高いという現状からも今後ますます定着していくことは想像に難くない。
こうしてみていくと、新しい行事定着のポイントは「女性」を狙い、「食べもの」を絡ませ、「コミュニケーション」の潤滑油となること、だろうか。「仕掛けているのはわかるけれど、なかなか定着しない」という印象を受ける年間イベントものは、これら3点のいずれかの視点で見直してみるのも面白いだろう。