2007.10.01 執筆コラム ヒット商品がおもしろいほど開発できる本(太田昌宏著、中経出版)

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2007年10号掲載

毎週のように夥しい数のビジネス書やマーケティング書が書店に並んでいるが、それだけ需要がある証なのだろう。本を読んでコンセプト開発がすんなりできたり、ヒット商品の企画書がすらすら書けたりしたら誰も苦労しないし、世の中ヒット商品ばかりになりそうなものだが、現実はそうそううまくいかないものだ。

そう、現実は動き続け、変化し続け、生活者は明確な自覚がないままに、欲しいと思う前に商品を手にレジに向かっている。理屈ばかり知っていても、そのような流動的な世の中と向き合う姿勢がないとヒット商品に近付くことはできない。

そうした中でこの一冊が価値を放つ理由は、まさに流動的な世の中としっかりと歩調を合わせながら、時にリードしながら、実際にヒット商品を手掛け続けた著者ならではの知恵が詰まっていることだろう。体温が感じられるマーケティング書である。

著者は江崎グリコにて「ポッキー」を中心としてヒット商品、ロングセラーブランドを手掛けた実績がある。従って、本書の中で紹介されている商品開発の各々のフェーズにおける記述は具体的でわかりやすく、また応用しやすい。自身の苦労した経験やアイデアを事業化していくプロセスも、読者目線で書かれているので共感しやすいだろう。

すぐに使えるチャートやマトリクスも豊富に出し惜しみされることなく取り入れているので、初心者からベテランまで、読み手のレベルや環境に応じて使いこなしやすいだろう。

短時間に読み終わるが、何度でも、どのようなフェーズでも使えるコツが満載なので、机の引き出しに常に入れておきたい。ちょっとしたヒントをいつでも得ることができるだろう。こうした書籍は現場適応力の有無が魅力を左右するが、著者の実績がそれを証明している。そして、その実績、そのマーケティング活動を支えているのが、著者の熱い思いであることも「ロングセラーは開発・営業・お客様との共同作品」という表現に凝縮されている。ぜひ、読みこなし、使いこなしを試みたい一冊だ。