公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2010年1号掲載
政権交代に代表される世の中の変化は、お客さまである生活者の「生活する気持ち」に揺さぶりをかけた。そのことはマーケティングに期待される役割や求められる機能にも大きく影響している。
エスノグラフィや行動観察の手法をいかに活用するか、インサイトをいかに得る等々、「見えていない足許」と「見えないその先」にアプローチしていくために、従来型マーケティング・プロセスでは満たされていない課題がこの1、2年で急激に増えていることを実感している人は多い。
新しい手法や技術には積極的でありたい。が同時に今一度、素直に人(目の前のお客さま)を視て、感じた上で、一担当者としてではなく、ひとりの生活者として「腑に落ちるか落ちないか」にこだわって「解をデザインしていくプロセス」にも手間暇かけていきたい。理屈やロジックの上では隙がないほど「正しい」ものであっても、腑に落ちない点があったら、それはどこかがやはり不自然で無理があるのだ。お客さまは正論や理屈では動かない、非合理な行動をとる、といったことはこれまでもずっと言われてきているが、企業活動の中ではお客さまの非合理よりも、社内の誰もが説明しやすく納得しやすい美しい正論の方が幅をきかせやすいのが現状だ。お客さまは企業の理屈や正論を買うわけではないにも関わらず。
これからのお客さまは今まで以上に手強い相手だ。これまでの正論を一蹴する「my正論」とお財布事情を各々が持っている。
さらに、これからのお客さまは今まで以上にセンシティブだ。ちょっとした肌触りや音、香りの違い、似て非なる見た目、わずかな価格差、誰がどのように評しているか、それらを瞬時に見分けて、選り好む。だからこそ、わたしたちは柔軟な目線と聞く耳を持って「腑に落ちるか否か」を自問し続けていかなければならない。