2010.02.01 執筆コラム 「あきらめ」と戦うシニア・ガールズ

公益社団法人 日本マーケティング協会発行 『MARKETING HORIZON』2010年2号掲載

あきらめないで!と、今日もテレビCMや雑誌広告でそう訴えているのは、今をときめく「あきらめない女優」真矢みき(46歳)。今でこそ何本ものCMや映画・ドラマに引っ張りだこの彼女であるが、98年にトップ男役として宝塚を退団後、一時は売れない時代が続いた。が、いまや好感度女優の常連となり、08年に43歳で結婚。だからこそ、彼女は力強く「あきらめないで!」と女性達に語りかける。「自分の夢を、女性として輝き続けることを、あきらめないで!年齢を言い訳にしないで!」と。

確かに女性たちはあきらめていない。もはやアラフォーをも超えたHanako世代を中心とした女性たち(40代後半~50代)の勢いが止まらない。もちろん彼女たちを狙った市場も非常に活気がある。大手化粧品メーカー各社の新商品もこの世代に照準を定めている。

彼女たちにとってエクステンションによる長いまつげやキラキラのネイルは、いまや普通のこと。子育てや家事や仕事や介護に、誰もがみな忙しいにも関わらず、彼女たちは何もあきらめていない。いや、そもそもあきらめ経験がない世代ゆえに、これは当たり前の現象だ。あきらめるどころか、彼女たちは「女性」を心底楽しんでいるのだ。

忍び寄る「シニアな影」との戦い

彼女たちの勢いはもはや誰にも止められず、当の本人達も行く先がわからないまま現象だけがエスカレートしている。30代以下の女性たちは「そんなに若い子に負けたくないんですか?」「そこまでフェロモン出して、何期待しているんですか?」と、冷たい視線を向けているが、そんなことは問題ではない。

むしろ、正直に忍び寄ってきている身体の衰えこそ、何よりも気になることなのだ。

引力に負け始めた脂肪は、顔や体にたるみをもたらす。お肌の水分含有量は確実に減少し、シワを増やす。若い頃の日焼けのツケがシミとなって現れる。代謝の低下は食生活が変わらなくても体重増を促す。

いくら楽天的世代の彼女たちでも、こうした身体の変化には気が付く。しかも、それはある日突然に。そしてますます美容は加熱する。その繰り返しである。

さらに決定的な変化が「閉経」である。精神的にも肉体的にも不安定な「更年期」をいかに乗り越えるか、という現実的で大きな問題が、最近では非常にオープンに語られるようになってきた。症状や程度は多様ではあるけれど、誰もが体験する自然のこととして、最新の女性ホルモン治療や東洋医学などをうまく味方に付けながら、閉経しても女性として内側も外側も輝き続けることに余念がない。整形がプチ整形として抵抗感が減ったように、閉経・更年期はメノポ(更年期障害)という名称で身近になった。

ガールズ・トークとしてのコンテンツ

そもそも自分で自分のことをオバサンと思っている女性は昔からいない。何歳になろうとも心はキラキラしたものや、ふわふわしたものが大好きなかわいい女の子である。中年女性グループのおしゃべりの騒がしさと女子高生グループに、その容姿を除けば何ら違いはないのである。

にもかかわらず、これまでは中年女性をあまりにも「女性としてのピークを過ぎた人」として扱ってはいなかっただろうか。置いてきぼりになっていた「女の子としての心」に伴走者として登場したのが、40~50代向け雑誌であり、「あきらめない市場」の品々である。

確かにそれらの雑誌における読者モデルは我が身を視ているようでイタい。が、同時に微笑ましい。そこには年齢相応のコンテンツがガールズ・トークとして構成されているからだ。

年代でくくればシニアであっても、気持ちはガールなのだ。シニア女性という見方では掴みきれないあれこれが、「シニア・ガールズ」視点ではいろいろと見えて来るに違いない。